ある1個のさいころを 4500 回投げたところ,3 の目が 804 回出た。このさいころは,3 の目が出る確率が $\frac{1}{6}$ ではないと判断してよいか。有意水準 5%で検定せよ。
1. 検定の準備:仮説を立てる
まず、この問題で私たちが統計的に確かめたいことを、数学の言葉で明確に設定します。 今回のテーマは「3の目が出る確率が $\frac{1}{6}$ ではないか?」です。これは「$\frac{1}{6}$ より出やすい」場合も、「$\frac{1}{6}$ より出にくい」場合も含むため、両側検定を行います。
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帰無仮説 ($H_0$): 「このさいころに歪みはなく、3の目が出る確率は $\frac{1}{6}$ である」という、私たちがこれから検証する基準となる仮説です。3の目が出る確率を $p$ とすると、数式では $p = \frac{1}{6}$ と表します。
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対立仮説 ($H_1$): 「このさいころには歪みがあり、3の目が出る確率は $\frac{1}{6}$ ではない」という、検定によって証明したい仮説です。数式では $p \ne \frac{1}{6}$ と表します。
【このステップのポイント】 観測した804回という結果は、私たちが期待する回数(後述の750回)とは違います。この違いが「単なる偶然」なのか、それとも「さいころの歪みという明確な原因」によるものなのかを判断するために、まず「もし本当に公平なさいころだったら…」という世界(帰無仮説)を基準に考え始めます。
2. 「もし仮説が正しければ」の世界を考える
次に、「もし帰無仮説が正しい(3の目が出る確率が本当に $\frac{1}{6}$ )だとしたら」という世界を想像し、その世界での平均的な結果とバラつきを計算します。
4500回さいころを投げて3の目が出る回数を $X$ とすると、$X$ は二項分布 $B(4500, \frac{1}{6})$ に従います。
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期待値 $m$ (平均して何回3の目が出るか?) 【公式】 期待値 $m = n \times p$ (補足:$n$ は試行回数、 $p$ は1回あたりの成功確率) $m = 4500 \times \frac{1}{6} = \bf{750}$ (回) もしさいころが公平なら、4500回投げれば平均して750回は3の目が出ると期待できます。
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標準偏差 $\sigma$ (結果は平均からどのくらいバラつくか?) 【公式】 標準偏差 $\sigma = \sqrt{n \times p \times (1-p)}$ (補足:$(1-p)$ は失敗する確率、つまり3以外の目が出る確率) $\sigma = \sqrt{4500 \times \frac{1}{6} \times (1-\frac{1}{6})} = \sqrt{4500 \times \frac{1}{6} \times \frac{5}{6}} = \sqrt{625} = \bf{25}$ (回) これは、結果が平均の750回から、だいたいプラスマイナス25回くらいの幅でバラつくのが「よくあること」の範囲である、という目安を示します。
3. 観測されたデータの「珍しさ」を数値化する (Z値の計算)
この「平均750回、バラつきの幅25回」を基準として、今回実際に観測された「804回」という結果が、どれほど珍しい(平均から離れている)出来事なのかを客観的な指標 Z値 で表します。
【公式】 Z値 $Z = \frac{X – m}{\sigma}$ (補足:$X$ は観測された回数、 $m$ は期待値、 $\sigma$ は標準偏差) $$Z = \frac{X – 750}{25}$$ このZ値は、平均が0、標準偏差が1の標準正規分布 $N(0, 1)$ に従います。この式の意味は「(実際の回数)と(期待される平均回数)の差が、バラつきの幅(標準偏差)の何個ぶんあるか」です。
4. 判断基準(棄却域)の設定
どれくらいZ値が0から離れていたら「歪みがある」と判断するかの基準(ライン)を決めます。有意水準5%の両側検定なので、この5%をグラフの両端に2.5%ずつ振り分けます。
正規分布表から、上側2.5%と下側2.5%の境界となるZ値を調べると、それぞれ 1.96 と -1.96 になります。
したがって、計算したZ値がこの範囲の外、つまり Z ≦ -1.96 または 1.96 ≦ Z であれば、それは「偶然にしては珍しすぎる」と判断し、帰無仮説を棄却します。この範囲を棄却域と呼びます。
5. 最終的な計算と結論
それでは、実際に観測されたデータ $X=804$ を使ってZ値を計算し、判定を下します。
$$Z = \frac{804 – 750}{25} = \frac{54}{25} = \bf{2.16}$$
計算されたZ値は 2.16 でした。 この値と、ステップ4で設定した棄却域(Z ≦ -1.96 または 1.96 ≦ Z)を比較します。
$$2.16 > 1.96$$
Z値 2.16 は、棄却域の右側の境界線である1.96を上回っており、棄却域の中に完全に入っています。 これは、「もしさいころが公平だとしたら、804回も3の目が出るのは、確率5%未満の極めて珍しい出来事である」ということを示しています。
この結果から、検定の出発点であった帰無仮説「3の目が出る確率は $\frac{1}{6}$ である」は、正しくないと判断して棄却します。
【結論】 帰無仮説が棄却されたため、対立仮説「3の目が出る確率は $\frac{1}{6}$ ではない」を採択する。すなわち、このさいころは3の目が出る確率が $\frac{1}{6}$ ではないと判断してよい。