あるテレビ番組の視聴率は従来 10 %であった。無作為に 400 世帯を選んで調査したところ、48 世帯が視聴していることがわかった。視聴率は従来よりも上がったと判断してよいか。有意水準 5 %で検定せよ。

あるテレビ番組の視聴率は従来 10 %であった。無作為に 400 世帯を選んで調査したところ、48 世帯が視聴していることがわかった。視聴率は従来よりも上がったと判断してよいか。有意水準 5 %で検定せよ。

1. 検定の準備:仮説を立てる

まず、この問題で私たちが統計的に確かめたいことは何か、そしてその比較対象となる基準は何かを明確に設定します。

  • 証明したいこと(対立仮説 $H_1$): 私たちが「こうではないか?」と主張したい仮説です。今回は「視聴率は従来よりも上がった」ことを証明したいので、現在の視聴率を $p$ とすると、$p > 0.1$ となります。

  • まず疑うこと(帰無仮説 $H_0$): 上の主張を証明するために、いったん「いや、視聴率は上がっておらず、従来と同じだ」と仮定します。これが帰無仮説で、検定によってこの仮説が間違っていることを示そうとします。数式では $p = 0.1$ と表します。

【このステップのポイント】 観測した48世帯(視聴率12%)は、従来の10%より高いです。しかし、この違いが「たまたま調査した400世帯の運が良かっただけ」なのか、「本当に番組の人気が上がったという明確な証拠」なのかを判断するために、まず「もし人気が従来と変わらないとしたら…」という世界(帰無仮説)を基準に考え始めます。

2. 「もし仮説が正しければ」の世界を考える

次に、「もし帰無仮説が正しい(視聴率が本当に10%のまま)だとしたら」という世界を想像し、その世界での平均的な結果とバラつきを計算します。

400世帯のうち視聴している世帯の数 $X$ は、二項分布 $B(400, 0.1)$ に従います。

  • 期待値 $m$ (平均して何世帯が視聴しているか?)公式】 期待値 $m = n \times p$ (補足:$n$ は調査した世帯数、 $p$ は1世帯あたりの視聴確率) $m = 400 \times 0.1 = \bf{40}$ (世帯) もし視聴率が10%のままなら、400世帯を調査すれば平均して40世帯が視聴していると期待できます。

  • 標準偏差 $\sigma$ (結果は平均からどのくらいバラつくか?)公式】 標準偏差 $\sigma = \sqrt{n \times p \times (1-p)}$ (補足:$(1-p)$ は視聴していない確率) $\sigma = \sqrt{400 \times 0.1 \times (1-0.1)} = \sqrt{400 \times 0.1 \times 0.9} = \sqrt{36} = \bf{6}$ (世帯) これは、結果が平均の40世帯から、だいたいプラスマイナス6世帯くらいの幅でバラつくのが「よくあること」の範囲である、という目安を示します。

3. 観測されたデータの「珍しさ」を数値化する (Z値の計算)

この「平均40世帯、バラつきの幅6世帯」を基準として、今回実際に観測された「48世帯」という結果が、どれほど珍しい(平均から離れている)出来事なのかを客観的な指標 Z値 で表します。

公式】 Z値 $Z = \frac{X – m}{\sigma}$ (補足:$X$ は観測された世帯数、 $m$ は期待値、 $\sigma$ は標準偏差) $$Z = \frac{X – 40}{6}$$ このZ値は、平均が0、標準偏差が1の標準正規分布 $N(0, 1)$ に従います。この式の意味は「(実際の数)と(期待される平均)の差が、バラつきの幅(標準偏差)の何個ぶんあるか」です。

4. 判断基準(棄却域)の設定

どれくらいZ値が大きければ「視聴率が上がった」と判断するかの基準(ライン)を決めます。今回は「上がったか」どうかを見る片側検定なので、有意水準5%をグラフの右端(値が大きい方)にすべて使います。

正規分布表から、上側5%の境界となるZ値を調べると、1.64 になります。

したがって、計算したZ値がこのラインを超え、 Z ≧ 1.64 であれば、それは「偶然にしては珍しすぎる」と判断し、帰無仮説を棄却します。この範囲を棄却域と呼びます。

5. 最終的な計算と結論

それでは、実際に観測されたデータ $X=48$ を使ってZ値を計算し、判定を下します。

$$Z = \frac{48 – 40}{6} = \frac{8}{6} \approx \bf{1.33}$$

計算されたZ値は 約1.33 でした。(解答画像の1.3は、途中で丸めた値です) この値と、ステップ4で設定した棄却域($Z \ge 1.64$)を比較します。

$$1.33 < 1.64$$

Z値 1.33 は、棄却域の境界線である1.64に届きませんでした。 これは、「もし視聴率が10%のままでも、48世帯が視聴するくらいのことは、偶然の範囲で起こりうる」ということを示しています。

この結果から、「視聴率は変わらない」という帰無仮説を棄却するだけの十分な証拠は得られませんでした。

【結論】 帰無仮説を棄却できないため、「視聴率は従来よりも上がったと判断することはできない」という結論になる。 (※これは「視聴率が上がっていないと証明された」のではなく、「上がったと断定できるほどの強い証拠は見つからなかった」という意味です。)

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