1000 g入りと表示された塩の袋の山から,無作為に 100 袋を抽出して重さを調べたところ,平均値が 998.2 g であった。母標準偏差が 5.0 g であるとき,1袋あたりの重さは表示通りでないと判断してよいか。有意水準 5%で検定せよ。

1000 g入りと表示された塩の袋の山から,無作為に 100 袋を抽出して重さを調べたところ,平均値が 998.2 g であった。母標準偏差が 5.0 g であるとき,1袋あたりの重さは表示通りでないと判断してよいか。有意水準 5%で検定せよ。

ポイント③ 母平均の検定

母集団の母平均を $m$, 母標準偏差を $\sigma$ とするとき,母比率の検定と同様に考えて,母平均 $m$ の検定を行うことができる。

1. 検定の準備:仮説を立てる

まず、この問題で私たちが統計的に確かめたいことを、数学の言葉で明確に設定します。 今回は「1袋あたりの重さは表示通りでないと判断してよいか?」と問われています。これは「表示より重い」場合も「表示より軽い」場合も含むため、両側検定を行います。

  • 標本平均 $\bar{X}$: 無作為に抽出した100袋の重さの平均値。今回は $\bar{X} = 998.2$ g です。
  • 帰無仮説 ($H_0$): 「表示通りである(=偏りはない)」という、これから検証する基準となる仮説です。つまり、塩の袋全体の本当の平均(母平均 $m$)は $m = 1000$ g である、と仮定します。
  • 対立仮説 ($H_1$): 「表示通りではない」という、検定によって証明したい仮説です。つまり、母平均 $m$ は $m \ne 1000$ g である、と考えます。

【このステップのポイント】 観測した998.2gは確かに1000gと違いますが、それが「誤差の範囲」なのか、「意味のある違い」なのかを白黒つけるために、まず「もし本当に平均1000gだとしたら…」という世界(帰無仮説)を基準に考え始めます。

2. 標本平均の分布を考える

次に、「もし帰無仮説が正しい(本当に母平均が1000gだ)」としたら、私たちの標本平均 $\bar{X}$ はどのような値をとる傾向があるのかを考えます。

標本の大きさ $n=100$ は十分に大きいため、中心極限定理という強力な定理により、標本平均 $\bar{X}$ の分布は、正規分布で近似できることが知られています。

  • 分布の平均: 標本平均の平均は、母平均 $m$ と一致します。つまり 1000 g。
  • 分布の標準偏差(標準誤差): 標本平均のバラつきは、元の母集団のバラつき(母標準偏差 $\sigma$)よりも小さくなります。その標準偏差(標準誤差と呼びます)は、$\frac{\sigma}{\sqrt{n}}$ で計算できます。 $$\frac{5.0}{\sqrt{100}} = \frac{5.0}{10} = \bf{0.50} \text{ g}$$

つまり、標本平均 $\bar{X}$ は、平均が1000、標準偏差が0.50の正規分布 $N(1000, 0.50^2)$ に従うと考えられます。

【このステップのポイント】 標準誤差の「0.50g」は、「もし何度も100袋ずつのサンプルを取ってきたら、その平均値はだいたい1000gを中心に、プラスマイナス0.5gの幅でばらつくだろう」という「平均値のばらつき具合」を示しています。

3. 観測されたデータの「珍しさ」を数値化する (Z値の計算)

この「平均1000、標準誤差0.50」を基準として、今回実際に観測された「998.2g」という結果が、どれほど珍しい(平均から離れている)のかを客観的な指標 Z値 で表します。

$$Z = \frac{\bar{X} – m}{\sigma / \sqrt{n}} = \frac{\bar{X} – 1000}{0.50}$$

このZ値は、平均が0、標準偏差が1の標準正規分布 $N(0, 1)$ に従います。 この式の意味は「(実際の平均値)と(仮説の平均値)の差が、平均値のばらつき具合(標準誤差)の何個ぶんあるか」です。

4. 判断基準(棄却域)の設定

どれくらいZ値が0から離れていたら「表示通りではない」と判断するかの基準(ライン)を決めます。有意水準5%両側検定なので、この5%をグラフの両端に2.5%ずつ振り分けます。

正規分布表から、上側2.5%と下側2.5%の境界となるZ値を調べると、それぞれ 1.96-1.96 になります。

したがって、計算したZ値がこの範囲の外、つまり Z ≦ -1.96 または 1.96 ≦ Z であれば、それは「偶然にしては珍しすぎる」と判断し、帰無仮説を棄却します。この範囲を棄却域と呼びます。

5. 最終的な計算と結論

それでは、実際に観測されたデータ $\bar{X}=998.2$ g を使ってZ値を計算し、判定を下します。

$$Z = \frac{998.2 – 1000}{0.50} = \frac{-1.8}{0.50} = \bf{-3.6}$$

計算されたZ値は -3.6 でした。 この値と、ステップ4で設定した棄却域(Z ≦ -1.96 または 1.96 ≦ Z)を比較します。

$$-3.6 < -1.96$$

Z値 -3.6 は、棄却域の左側の境界線である-1.96をはるかに下回っており、棄却域の中に完全に入っています。 これは、「もし本当に全体の平均が1000gだとしたら、平均998.2gという結果が得られるのは、確率5%未満の極めて珍しい出来事である」ということを示しています。

この結果から、検定の出発点であった帰無仮説「$m=1000$ である」は、正しくないと判断して棄却します。

【結論】 帰無仮説が棄却されたため、対立仮説「$m \ne 1000$ である」を採択する。すなわち、1袋あたりの重さは表示通りでないと判断してよい。


【参考】母標準偏差 $\sigma$ が不明な場合

今回の問題では母標準偏差 $\sigma=5.0$g が与えられていましたが、現実には不明なことの方が多いです。その場合でも、標本の大きさ $n$ が十分大きければ(一般に30以上)、$\sigma$ の代わりに標本から計算した標準偏差 $s$ を用いて、同様の検定を行うことができます。

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