ある硬貨を 400 回投げたところ、表が 185 回出た。この硬貨は、表と裏の出方に偏りがあると判断してよいか。有意水準5%で検定せよ。

ある硬貨を 400 回投げたところ、表が 185 回出た。この硬貨は、表と裏の出方に偏りがあると判断してよいか。有意水準5%で検定せよ。

ポイント① 表が出る確率を $p$ とする。表と裏の出方に偏りがあるならば $p \ne 0.5$ である。「表と裏の出方に偏りがない」、すなわち $p=0.5$ という仮説を立てる。

【問題55】 解答と詳しい解説

1. 検定の準備:仮説を立てる

まず、私たちがこの問題で確かめたいことを、数学の言葉で明確に設定します。 今回のテーマは「コインに偏りがあるか?」です。これは「表が出すぎる」場合と、「裏が出すぎる(=表が少なすぎる)」場合の両方を含みます。

  • 帰無仮説 ($H_0$): 「このコインに偏りはない(公平である)」という、私たちがこれから検証する基準となる仮説です。公平なコインの表が出る確率 $p$ は $1/2$ なので、数式では $p = 0.5$ と表します。

  • 対立仮説 ($H_1$): 「このコインには偏りがある」という、検定によって証明したい仮説です。偏りがある場合、表が出る確率は $0.5$ ではないので、数式では $p \ne 0.5$ と表します。

【ポイント】 今回は「優れている」といった方向性がないため、$p > 0.5$ や $p < 0.5$ ではなく、$p \ne 0.5$ となります。このような検定を両側検定と呼びます。

2. 「もしコインが公平なら」の世界を考える

次に、「もし帰無仮説が正しい(このコインが本当に公平)だとしたら」という世界を想像し、その世界での平均的な結果とバラつきを計算します。これが比較の土台となります。

コインを400回投げて表が出る回数を $X$ とすると、$X$ は二項分布 $B(400, 0.5)$ に従います。

  • 期待値 $m$ (平均して何回表が出るか?) $m = n \times p = 400 \times 0.5 = \bf{200}$ (回) もしコインが公平なら、400回投げれば平均して200回は表が出ると期待できます。

  • 標準偏差 $\sigma$ (結果は平均からどのくらいバラつくか?) $\sigma = \sqrt{n \times p \times (1-p)} = \sqrt{400 \times 0.5 \times (1-0.5)} = \sqrt{100} = \bf{10}$ (回) これは、結果が平均の200回から、だいたいプラスマイナス10回くらいの幅でバラつくのが「よくあること」の範囲である、という目安を示します。

3. 観測されたデータの「珍しさ」を数値化する (Z値の計算)

この「平均200回、バラつきの幅10回」を基準として、今回実際に観測された「185回」という結果が、どれほど珍しい(平均から離れている)出来事なのかを客観的な指標で表します。その指標が Z値 です。

$$Z = \frac{X – m}{\sigma} = \frac{X – 200}{10}$$ この式の意味は「(実際の回数)と(平均)の差が、バラつきの幅(標準偏差)の何個ぶんあるか」です。Z値の絶対値が大きいほど「珍しい結果」と言えます。

4. 判断基準(棄却域)の設定

どれくらいZ値が平均から離れていたら「偏りがある」と判断するかの基準(ライン)を決めます。有意水準5%とは、「もしコインが公平な場合に、偶然起こる確率が合わせて5%未満の珍しい結果が出たら、それは偶然ではないと判断する」というルールです。

今回は両側検定なので、この5%をグラフの両端に2.5%ずつ振り分けます。 正規分布表で、上側2.5%と下側2.5%の境界となるZ値を調べると、それぞれ 1.96-1.96 になります。

したがって、計算したZ値がこの範囲の外、つまり Z ≦ -1.96 または 1.96 ≦ Z であれば、それは「偶然にしては珍しすぎる」と判断し、帰無仮説を棄却します。この範囲を棄却域と呼びます。 逆に、-1.96 < Z < 1.96 の範囲であれば、「偶然の範囲内だ」と判断します。

5. 最終的な計算と結論

それでは、実際に観測されたデータ $X=185$ を使ってZ値を計算し、判定を下します。

$$Z = \frac{185 – 200}{10} = \frac{-15}{10} = \bf{-1.5}$$

計算されたZ値は -1.5 でした。 この値と、ステップ4で設定した棄却域(Z ≦ -1.96 または 1.96 ≦ Z)を比較します。

$$-1.96 < -1.5 < 1.96$$

Z値 -1.5 は、棄却域に入らず、偶然でも起こりうる範囲の中に収まりました。 これは、「コインが公平だとしても、400回中185回表が出るくらいのズレは、十分に起こりうる」ということを示しています。

この結果から、帰無仮説「このコインに偏りはない」を棄却するだけの十分な証拠は得られませんでした。

【結論】 帰無仮説を棄却できないため、「この硬貨は表と裏の出方に偏りがあると判断することはできない」という結論になる。 (※これは「偏りがないと証明された」のではなく、「偏りがあると断定できるほどの証拠は見つからなかった」という意味です。)

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