標本平均の期待値と標準偏差の求め方【例題解説】
この記事では、統計学の重要な分野である「標本平均の期待値と標準偏差」に関する問題を3問、丁寧に解説していきます。標本調査の基本となる考え方であり、使う公式は主に2つです。その使い方をマスターしていきましょう。
(1) 分布が与えられた問題
問題 母集団の変数Xが右のような分布をしているとする。 この母集団から復元抽出によって得られる大きさ4の無作為標本を $X_1, X_2, X_3, X_4$ とするとき、その標本平均 $\bar{X}$ の期待値と標準偏差を求めよ。
$X$ | 4 | 5 | 6 | 計 |
---|---|---|---|---|
度数 | 3 | 5 | 2 | 10 |
解説
この問題は、標本平均 $\bar{X}$ の期待値と標準偏差を求めることが要点です。 ここで用いる重要な公式は以下の2つです。母集団の平均を $\mu$、母標準偏差を $\sigma$、標本の大きさを $n$ とします。
- 標本平均の期待値: $E(\bar{X}) = \mu$ 標本平均の期待値(平均)は、母集団の平均(母平均)と等しくなります。
- 標本平均の標準偏差: $\sigma(\bar{X}) = \frac{\sigma}{\sqrt{n}}$ 標本平均の標準偏差は、母標準偏差を、標本の大きさ $n$ の平方根で割ることで求められます。これは標準誤差とも呼ばれます。
この問題では、母平均 $\mu$ と母標準偏差 $\sigma$ が直接与えられていないため、最初のステップとして、与えられた分布の表から $\mu$ と $\sigma$ を計算します。
ステップ1:母平均 $\mu$ を求める 期待値の定義は「(変数の値)×(その確率)」の総和です。 表の度数の合計は $3+5+2=10$ なので、それぞれの確率は、X=4が$\frac{3}{10}$、X=5が$\frac{5}{10}$、X=6が$\frac{2}{10}$です。 $$\mu = 4 \times \frac{3}{10} + 5 \times \frac{5}{10} + 6 \times \frac{2}{10} = \frac{12+25+12}{10} = \bf{\frac{49}{10}}$$ これが母平均 $\mu$ です。
ステップ2:母分散 $\sigma^2$ と母標準偏差 $\sigma$ を求める 次に、母標準偏差 $\sigma$ を求めるために、まず母分散 $\sigma^2$ を計算します。分散の公式は「2乗の平均 – 平均の2乗」です($V(X) = E(X^2) – {E(X)}^2$)。 まず「2乗の平均」$E(X^2)$を計算します。 $$E(X^2) = 4^2 \times \frac{3}{10} + 5^2 \times \frac{5}{10} + 6^2 \times \frac{2}{10} = \frac{16 \times 3 + 25 \times 5 + 36 \times 2}{10} = \frac{48+125+72}{10} = \frac{245}{10}$$これを使って分散を計算します。$$\sigma^2 = \frac{245}{10} – (\frac{49}{10})^2 = \frac{2450}{100} – \frac{2401}{100} = \frac{49}{100}$$母標準偏差 $\sigma$ は、分散の正の平方根です。$$\sigma = \sqrt{\frac{49}{100}} = \bf{\frac{7}{10}}$$
ステップ3:標本平均の期待値と標準偏差を求める これで必要な値が揃いました。標本の大きさは $n=4$ なので、冒頭の公式に代入します。
- 期待値: $E(\bar{X}) = \mu = \bf{\frac{49}{10}}$
- 標準偏差: $\sigma(\bar{X}) = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} = \frac{7/10}{\sqrt{4}} = \frac{7/10}{2} = \bf{\frac{7}{20}}$
以上が(1)の答えです。
(2) 母平均・母標準偏差が与えられた問題
問題 ある県における高校2年生の男子の体重の平均値は 64.1 kg, 標準偏差は 10.5 kg である。この県の高校2年生の男子 100 人を無作為抽出で選ぶとき, 100 人の体重の平均 $\bar{X}$ の期待値と標準偏差を求めよ。
解説 この問題では、母平均 $\mu = 64.1$、母標準偏差 $\sigma = 10.5$、標本の大きさ $n=100$ と、計算に必要な情報がすべて問題文で与えられています。 したがって、公式にこれらの値を代入するだけで解くことができます。
- 期待値: $E(\bar{X}) = \mu = \bf{64.1}$ (kg)
- 標準偏差: $\sigma(\bar{X}) = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} = \frac{10.5}{\sqrt{100}} = \frac{10.5}{10} = \bf{1.05}$ (kg)
以上で(2)の答えが求められました。
(3) さいころの問題
問題 1個のさいころを 70 回投げるとき, 出る目の平均を $\bar{X}$ とする。$\bar{X}$ の期待値, 標準偏差を求めよ。
解説 この問題も(1)と同様に、まず「さいころを1回投げたとき」の母集団について、母平均 $\mu$ と母標準偏差 $\sigma$ を自分で求める必要があります。
ステップ1:母平均 $\mu$ を求める さいころの目は「1, 2, 3, 4, 5, 6」が、それぞれ確率 $\frac{1}{6}$ で出ます。これが母集団の分布です。 母平均 $\mu$ は、 $$\mu = 1 \times \frac{1}{6} + 2 \times \frac{1}{6} + 3 \times \frac{1}{6} + 4 \times \frac{1}{6} + 5 \times \frac{1}{6} + 6 \times \frac{1}{6}$$ $$= \frac{1}{6}(1+2+3+4+5+6) = \frac{21}{6} = \bf{3.5}$$
ステップ2:母分散 $\sigma^2$ と母標準偏差 $\sigma$ を求める 分散 $\sigma^2$ を「2乗の平均 – 平均の2乗」で計算します。 「2乗の平均」$E(X^2)$は、 $$E(X^2) = \frac{1}{6}(1^2+2^2+3^2+4^2+5^2+6^2) = \frac{1}{6}(1+4+9+16+25+36) = \frac{91}{6}$$分散 $\sigma^2$ は、$$\sigma^2 = \frac{91}{6} – (3.5)^2 = \frac{91}{6} – (\frac{7}{2})^2 = \frac{91}{6} – \frac{49}{4} = \frac{182 – 147}{12} = \frac{35}{12}$$母標準偏差 $\sigma$ は、この平方根です。$$\sigma = \sqrt{\frac{35}{12}}$$
ステップ3:標本平均の期待値と標準偏差を求める 標本の大きさは $n=70$回なので、公式に代入します。
- 期待値: $E(\bar{X}) = \mu = \bf{3.5}$
- 標準偏差: $\sigma(\bar{X}) = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} = \frac{\sqrt{35/12}}{\sqrt{70}} = \sqrt{\frac{35}{12 \times 70}}$ ここで、35と70を約分します。 $$= \sqrt{\frac{1}{12 \times 2}} = \sqrt{\frac{1}{24}} = \frac{1}{\sqrt{24}} = \frac{1}{2\sqrt{6}} = \frac{\sqrt{6}}{12}$$ よって、標準偏差は $\bf{\frac{\sqrt{6}}{12}}$ となります。
まとめ
今回の要点を振り返ります。 標本平均 $\bar{X}$ の期待値と標準偏差は、以下の2つの公式で求められます。
- 期待値: $E(\bar{X}) = \mu$
- 標準偏差: $\sigma(\bar{X}) = \frac{\sigma}{\sqrt{n}}$
問題によっては、母平均 $\mu$ と母標準偏差 $\sigma$ を自分で計算する必要がありますが、この2つの公式さえ覚えておけば、どのような問題にも対応できます。